休日のつまらなさを知る
2006年 12月 03日
皆様、こんばんは。あなただけの九尾狐です。
さて、いよいよテストまで後3日です。と言って勉強するわけでもないんですけどね。今日午前中一杯懸けても物理がわけわからなかったし。そもそも今回のテスト範囲でちゃんと理解しているのは英語Ⅰと古典と世界史だけという無残な状態。全12教科中3教科だけってどうよ?
いい加減、ちゃんと勉強せんといかんなぁ………
しかし勉強しないにもかかわらず、本日は一日中家に引き篭もり。………昨日の水業のせいで風邪を引いたのかなぁ…? どうも身体の調子がおかしい。
どうも体調が優れない今現在。テスト近いのに大丈夫かよ。。
というわけでネタがありません。しかし更新はしたい。故に本日は短編小説でも載せようと思います。『んなもん、見たくないわい』という方はここで見るのを止めて下さいね。
―――あら、いらっしゃい。あぁ、ここはその通り、コロッケ屋だよ。ん? 何でこんなにも辺鄙で人通りの少ないところでコロッケ屋をやってるか、だって? 辺鄙だとは失礼だねぇ。あたしゃここでずっとコロッケを作り続けてるんだよ。そうだねぇ…強いて言うなら、ほら、すぐ前に神社があるだろう。あたしはこの神社に、小さい頃助けてもらったからかねぇ。
あぁ、私の話なんてどうだっていいよ。コロッケ5つだね。ほらよ。はい、ありがとう。良かったらまた来てね。
あたしは長いことここでコロッケを揚げ続けているからねぇ、今までに何人ものお客さんと接してるんだよ。その中でも、特に深く心に残っている客が何人かいる。昔の話なんか、思い出したら寂しくなるだけだから思い出したかないんだけど、今日みたいな雨の日にはいっつもあの女の子のことが頭に浮かんでくる。
そう、あれも今日みたいに、突然雨が降ってきた日だったねぇ。10年ぐらい前前のお話だけどね。
急に空が濁って、次の瞬間にはザーザーと雨が降ってきたから、あたしも驚いていた。あの女の子も、その雨に文句を言いながら走ってきた。
「もぅ~、何なの急に。ビショビショになっちゃったじゃない!!」
「ちょっとお嬢ちゃん、雨宿りしていったらどうだい?」
「あら、おばさん、いいんですか?」
「困ってる子を放っておいたら、あたしが神様に叱られちまうよ」
「じゃぁ、お言葉に甘えさせてもらいます」
そうだねぇ、年の頃でいったら20代半ばぐらいだったねぇ。黒い髪がサラリと伸びていて、端正な顔立ちをしている、美人さんだった。服はシャキッとしたスーツだったと思う。もう10年も昔のことだからはっきりとはしないけど、たぶんスーツだったよ。
「ほら、食べな」
「え、いいんですか?」
「あたしの奢りだよ。揚げたてなんだから冷めない内に食べな。体が温まるから」
「ありがとうございます。いただきます。………美味しい」
「そうかい、そいつは良かった」
「あたし、店で売ってるコロッケなんか初めて食べたんですけど、すっごく美味しいです」
「フフフ、そういってもらえると、こっちも作り甲斐があったってもんだよ」
本当に美味しそうな顔をして食べてくれたよ。あたしはああいう顔が大好きで、コロッケを作ってるんだけどね。
女の子はコロッケを頬張りながらふと、目の前に佇んでる神社の方に目を向けた。するとどうだい、御神木の下で若い男が雨宿りをしていたんだ。それも男だけじゃなく、その周りに野良犬やら野良猫やらが集まっている。
「おばさん、あの男の人、いつから?」
「いや、あたしも今気付いたねぇ」
「ちょっと行ってきます」
「待ちな。どうせ行くんだったら、あの男の人にもこれを持って行っておやり。ほら、一緒に雨宿りしている犬猫の分も」
「はい」
そういって女の子はその木の下へと駆けて行った。何を話しているのかは生憎聞こえてこなかったけど、女の子がこの店を指差しているのは目に入った。あたしゃ、何だか照れ臭くなって、さっと奥へと入ってしまったけどね。
ちょっとして戻ってくると、あの二人は楽しそうに話していた。二人とも顔を綻ばせて、男は周りの犬猫にコロッケをやりながら、ね。
雨がだいぶ小降りになってきたら、あの二人はこっちに来た。犬や猫はもう何処かへ行ってしまっていたけどね。
「コロッケ、どうもありがとうございました。お幾らですか?」
なかなかのいい男だった。スーツを着ていて、いかにも真面目で実直そうな男だったよ。
「いい、いい。今日のはあたしの奢りだよ」
「それは、どうもありがとうございます」
「おばさん、聞いて下さいよ。この人、さっき貰ったコロッケを全部周りの犬や猫にあげちゃって、自分は一つも食べてないんですよ」
「おやまぁ、今時にしたらよく出来た男だ。ほら、もう一つやるよ。これはあんたが食べるんだよ」
「本当にお世話になってばかりですね。重ね重ねありがとうございます」
これが、あたしとあの二人との始めの出会いだった。男とはそれ以降、全然話さなかったけど、女の子はよく来てくれたよ。で、女の子は決まってコロッケを五つ買って、御神木の下で男を待つんだ。そしてその五つのコロッケを、一つずつ男と分けて、残りの三つは犬や猫にやるんだね。それがあの二人のお決まりのデートスタイルだった。
女の子は店に来る度に、あたしに男のことを話して聞かせた。男の職業だの、趣味だの、昨日の男の夕食についてまで、あたしに話した。あの女の子はちょうどあたしのコロッケを初めて食べた時と同じような顔をして話すもんだから、あたしはつい聞いちゃってねぇ。今思えば、くだらない話だったよ。よくあたしも聞いていたもんだ。
あの子が話してくれた男についての話はもう、全く憶えてないよ。正直、興味もなかったからねぇ。そう、憶えていることといったら、毎回毎回去り際に、こちらに向かって会釈をしていたことぐらいだねぇ。
そういうことが3ヶ月ほど続いた。あの子はいつも幸せ一杯の笑顔でここに顔を出していた。でも、神様はあの子に微笑んでくれなかった。
どんよりと曇った日が4日ほど続いていたころかねぇ。女の子が泣きながら店に来たんだよ。いつもの天真爛漫な笑顔は消えさって、涙で目は真っ赤に腫れていた。あたしは驚いて驚いて、とにかく女の子を奥へと連れて行った。
「如何したんだい。そんなにも泣いて」
「………おばさん、あの人が、あの人が死んだんです」
「あの人って、あんたがいつも御神木の下で会っていたあの男の人がかい?」
女の子は涙を溢しながらコクリと頷いた。
「どうして?」
「………か……火事の現場に居合わせて……その建物の中に取り残された小さな男の子を助けようと……中に入っていって…男の子をベランダから下に降ろしたまでは良かったんだけど…結局……助けに行った本人は…男の子を助けた後で……一酸化中毒で倒れたんですって」
「……そうかい」
「おばさん!! 何であの人は死んじゃったの!? どうしてあの人が!! 子供なんて助けなきゃ良かったのに!! そのまま放っておけばよかったのに!! …どうして………どうしてあの人は死に方まで格好いいの!?」
「………」
「………おばさん、私、まだあの人に『好き』って言えてない」
「…そうかい」
「せめて…一言『大好き』って言いたかった」
「………」
「………」
あたしは何て言ったらいいのか全然わからなかった。只、あの子の話を聞いていてあげることしか出来なかった。あたしのコロッケも、この時だけは全然効果がなかった。本当に自分が不甲斐なく感じた。
「………おばさん、ありがとう。あたし、もう行きます」
「………そうかい」
「最後に、おばさんのコロッケ、食べたい」
「……そんなもん、幾らでも食べさせてあげるよ」
「あの子達にも、あげてこないと」
そういってあの子は、神社へと駆けて行った。犬や猫たちはさっと集まって、尻尾を振ってたねぇ。あの子は目に涙を浮かべながらも、綺麗な笑顔をしていたよ。空は今にも大泣きしそうだったけどね。
女の子はみんなにやり終わった後、犬猫に向かって名残惜しそうに手を振って、こっちに戻ってきた。
「私も、一つ貰えますか?」
「ほらよ」
「ありがとうございます。………うわぁ、やっぱり美味しいなぁ」
「そう言ってもらえると、嬉しいよ」
あの子は食べながら一粒だけ、綺麗な水晶の玉を目から溢したっけねぇ。あたしは自分の目から汗が流れるのを抑えるのに必死だったからよく憶えてないけど、確かにそんな気がしたんだよ。
「じゃあ、もう行きますね」
「ああ、達者でね」
「今まで、本当にありがとうございました」
「ふん、永遠の別れみたいなことを言うんじゃないよ」
「ウフフ」
すると途端に空が涙を流し始めた。そう、ちょうどあの日と同じようにね。空も遂に堪えられなくなってのかねぇ。女の子はちらりと空を見上げて、こっちに視線を戻してから、満面の笑みで一礼して、タッと走って行ったよ。その後ろ姿はどんな背中よりも精悍だった。
神様の涙を体一杯で受け止めて、あの子は立ち去って行ったよ。
いやだねぇ、あんなことを思い出しちゃって。また目から汗が流れそうになるじゃないか。
あれから10年も経ったけど、御神木は全然変わらないねぇ。変わったことといえば、野良猫や野良犬が随分と減っちまったことぐらいだね。他は何にも変わりやしない。ま、それがいいことなんだろうけどね。目まぐるしく動いてる社会の中に、ちょっとはこんな場所があってもいいと思うけどね。
おや、雨が随分と小降りになってきたじゃないか。それじゃあ、洗濯物を外に出そうかねぇ。
☆彡
by kyubi-grakai
| 2006-12-03 21:29
| 心の詩